話しの置き場

話したことの覚え書き

あなたが残せる宝

日本の武道や伝統的な工芸品等の文化は知識や技を教えることだけが、伝え残すことではない。その技法や作法はただの技術や形ではなく、その裏には意味がある。何の為の、誰の為のという物を思い、人を思う心を学び、生き方の役に立てていくことが、その伝統文化の全てを受け継ぐことになる。またそこまで教えてこそ、伝えたといえるであろう。

 

また、伝統技術の多くは、何十年という時間をかけて習得していくものである。技術を磨き追求することに終わりはなく、生涯をかけて磨き続けるものである。終わりなき探求心、終わりなき向上心も伝統文化に受け継がれる精神のひとつだと思う。

物事を教えるとき、言葉だけでは伝わりきらない。特に精神的なことは、その姿を見て、ハッとさせられたときに誠に受け継がれるものである。

であれば、終わりなき向上心を我が身で示してこそ、真に伝え教えていると言えるだろう。歳を取ったから私はもうよいなどと言うことなく、自分自身がさらなる上を目指し続けてこそ、若い人も動いてゆくというものである。

 

人は誰しも歳をとる内、体が動かなくなる。されども、人の精神は考えることを辞めぬ限り成長し続けるものである。心の成長に終わりなく、故に文字通り死ぬまで続く終わりなき探求である。精神的なレベルは自分より下は見えるが、自分より上は見えないものである。であるから、人は皆今の自分の考え方で完成されていると思いこんでしまう。だからこそ、常に未熟を認め、上を目指す気持ちを忘れてならない。

 

そして、積み上げてきた、人生を生き抜く心のあり方や物事の捉え方を教え伝えていくことが、歳を重ねた者の役目である。

人生を生きる精神、心、生き方、これこそが、後の世を生きて行く人の一生の間、役に立つ宝である。

どうぞあなたの宝を残してやってください。